2018年4月10日火曜日

姜子牙というとてもラノベに向いた名前

帯広の病院から転勤してきた技師さんのおみやげである十勝あずきもなか(こしあん)を食っていたら、研修医がデスクにやってきて、二言三言相談をもちかけられた。

研修医は去り際に、デスクに向かうぼくをみてこう言った。

「先生のその仕事スタイル、うらやましいです」

「だろ」

「病理医ってみんなこうなんですか」

「こう とは」

「昼間にデスクでもなか食べながらイヤホンで音楽聴いてブログの更新とかしてるんですよね」

「うむ」

「うらやましいです」

「だろ」




ときおり初期研修医がうらやましく感じる。

非医療者として暮らしてきた人生の川から医療界という海に流れ込んだばかり。

汽水域には栄養が集まり、よい漁場が形成されている。

必死で釣り糸を垂らして魚をとろうとする。けれどまずは針糸の結び方からだ。

揺れる舟の上でがんばって仕掛けを作る。

先輩は真っ黒に日焼けして、手際よく舟を動かしながら、ときどき沖の雲行きなども気にしつつ、景気のいい声を四方に飛ばしている。

ぼくはそれを護岸から眺めている。

いいなあ、ああいう時代はぼくにはなかった。




猟師がこちらに向かって叫ぶ。「相変わらずの太公望は楽しそうでいいなあ!」

ぼくも手を振って答える。

そろそろ潜水艦のエンジンをかけようかな、なんて思っている。




もなかを食べたらお茶がのみたくなった。病院1階のローソンに降りていくと他科の医師がいた。あいさつをする。

「お疲れ様です。先生いまから昼飯ですか? あいかわらずお忙しそうですね」

「まさかまさかたいしたことないですよ。お茶買いにきただけです」

横に先ほどの研修医がいた。目を丸くしてこちらを見ている。

「だろ」という目で返しておく。