2017年7月7日金曜日

脳だけが旅をする

雨の信州路、乗合タクシーには7人が乗車していて、みんな他人同士で無言だった。Wi-Fiが搭載された車内でぼくはツイッターで見つけたブログ記事やツイ4のマンガなどを読みながら夢を見た。夢の中でぼくはハンドルを握らずに運転をしており、強い雨でフロントガラスが波打つのをはらはらしながら見守っていた。

アメリカ留学している同期がずっと業績の話をしている。彼はインパクト・ファクターという言葉を何度も使いながら、合間に自分の娘に対していかに時間を割いているか、明るいうちに自宅に帰ってテニスコートやプールに行く生活がいかに家庭と仕事を輝かせているかを、完成された再放送のようなフレーズで懇々と説法していた。

雨が上がった音がしたので目が覚めた。スマホのページはバナークリックした覚えのないエロマンガサイトにつながっており、ぼくは高速バス会社の職員があとでこのログを見つけたときにどういう独り言をつぶやくのだろうと考える。

思索の荒野という言葉を繰り返しメロディに乗せた向井秀徳は、思索が広がって薄まって虫に集られ夕日に焦がされ石が砂となるように風化していくさまを思っていたのだろうか、ぼくは何かを考えているときにたいてい、広かったはずの道を車で飛ばして行くうちにだんだん車線が減り、中央分離帯が細くなり、対向するトラックに水しぶきを盛大にぶっかけられ、あわててワイパーで殴りつけながら、早くパーキングエリアで休みたい、マルボロに火を付けたい、ひとつ吸った途端に、早く走り出さないと目的地にいつまでたっても着かないとやきもき、コーヒーも買わずにまた雨の高速道路にしぶしぶ戻っていく、そんなイメージを持っているので、思索の荒野に道を通した人は偉いなあ、ぼくはそこを走るだけでこんなに雨男なのに、と、また降り出した雨の音が拘束された罪人の頭を打つ水の拷問のようだなと、そういえばあの同期はそもそも医者ではなかったし子供もいなかったし高校の時に死んだのだったなと、あわてて手を合わせて少し脳を閉じた。