2017年5月18日木曜日

モンゴルさん

この原稿は、ぼくがモンゴルにいる間にアップされる予定です。ツイッターで告知できないかもしれません。わざわざ読みに来てくださった方、いつもありがとうございます。




今回のぼくのモンゴル出張、目的は、ANBIG workshop ( http://www.anbig.org/ ) に出席することである。

Asian Novel Bio-Imaging and Intervention group, 略してANBIG。Iが2回あるけど、1回しか読んでいない。こういう、無茶な略称を付けた研究会には、たいてい「その略称でなければいけなかった理由」がある。

きっと、Asian NBI groupと読んでもらうためだろうなあ。

「NBI」とは、オリンパスという企業が作った胃カメラ・大腸カメラの技術の名前(narrow band imaging)に等しい。つまりはCMをかねているのだろう。

オリンパスだけではなく、複数の企業が協賛して、このぜいたくな研究会を支えている。





ANBIG workshopの正体は、エキスパート内視鏡医(胃カメラや大腸カメラの達人たち)が、アジア各国で技術を伝えて回る会だ。

過去にベトナム、香港、ミャンマー、インド、タイ、オーストラリア、台湾、中国、シンガポール、サウジアラビア、韓国、スリランカ、マレーシア、インドネシアで複数回開催されている。うーん、すごい数。

これだけの国で、しかもそれぞれ複数回開催されているとなると、さぞかし歴史ある研究会なのだろう、と思ってさかのぼってみて、驚いた。

中国で開催された第1回は2013年12月のこと。たかだか3年半しか経っていないのに、これだけの国に行ったというのだろうか?

過去の記録をふりかえってみた( http://www.anbig.org/activities/ )。なんと、「毎月」開催しているのである。

毎月、国際研究会を、各国で開催するだけのお金……?

いくら多数の企業が協賛していると言っても、なかなか運営できる回数ではない。




ANBIGでは、毎回、「先生役」にあたる医師が、2名ほど現地に乗り込んで、内視鏡を用いた最新の技術を、その国のエース達に「伝授」する。

呼ばれる「先生役」の多くは日本の内視鏡医だ。病理医のぼくですら聞いたことのあるような有名な名前が、ずらりと並ぶ。




これだけの国に、これだけの頻度で、毎回日本から、国際線に乗っけて偉い人を運ぶだけの「ニーズ」と「商売のタネ」が、この世界に存在する、ということ。

ちょっと、気が遠くなる。




胃カメラ、大腸カメラがターゲットとするのは、食道がん、胃がん、大腸がん。内視鏡医たちは、これらのがんをカメラで見て「診断」し、さらに、その場でカメラから特殊な電気メスのようなデバイスを出して「治療」をする。

胃カメラや大腸カメラですべてのがんを治療できるわけではない。進行したがんは、カメラの先から出る小さなデバイスだけでは治療がしきれないので、外科手術を行ったり、放射線治療や抗がん剤を使うなどして治療を行う。

ただ、「ある程度小さいがんであれば」、手術をしなくても、放射線や抗がん剤を使わなくても、カメラだけで治療できてしまうことがある。

これは本当にすごいことだ。

お腹を切り開かなくても、抗がん剤の副作用に耐えなくても、がんを根治させることができる、そんな素晴らしいことはない。限られたケースでしか適用できないにしても、だ。

だから、世界各地の「胃腸のお医者さん」は、最新の内視鏡治療がやりたくてしょうがない。




すごいお金が動いて、アジアのあちこちで研究会が開催されるのも、納得なのである。




そんなところになぜぼくが呼ばれていくのか……。

実はまだ、このブログを書いている時点では、モンゴルにたどりついてもいないし、講演も終わっていないので、ぼく自身、答えを持っていないのだが、ある理由を推測している。



理由。

胃カメラや大腸カメラを「極めよう」と思ったら、病理の知識について勉強したくなるのは当たり前と言える。

研究会が成熟し、モンゴルでも通算3回目の開催となったANBIG。「そろそろ病理医を呼びたいな」となったこと自体は、まったく不思議ではない。

内視鏡の進歩はすさまじく、それこそ前述のNBI(オリンパス)やFICE(富士フィルム)などの光学強調技術、さらには超拡大内視鏡(エンドサイトスコピー)と呼ばれる技術によって、消化器診療は今や、

「カメラを見るだけで、病気を形作る細胞の姿まである程度わかってしまう」

時代に突入した。

病気を切り出してきて、顕微鏡で覗かなくても、胃カメラや大腸カメラの画像を細かく解析すれば、病理診断に匹敵する確定診断ができるかもしれない。

「病理診断に匹敵する」ために必要なのは、「病理診断に精通する」ことだ。

実際、日本では、多くの内視鏡系の学会・研究会があるが、その多くで病理医が参画している。

だから、ANBIGでも、このたびはじめて、病理医を呼ぶことになったのであろう。



……なぜぼくなのだ?

それは、ぼくが、「ほどよいザコ」だからではないか。



海外の研究会に、病理で有名な教授なんて読んで講演を頼んだら、交通費・宿泊費に加えてさらに、「講演料」を払わなければいけない。

その点ぼくなら、偉くないから、交通・宿泊以外のお金を払わなくていい(実際、講演料は出ません)。

多少強行日程であっても、体調を崩しても、日本の病理学が揺らぐわけでもないし。

なにより、「病理の会」じゃなくて、「内視鏡医の会」なんだから、多少経験が少ない病理医でも、なんとかなるんじゃねぇの?




……みたいな理由を考えないと、なぜぼくが呼ばれたのか、どうもよくわからんのである。謙遜とかではない、ふつうにびびって、モンゴルでスマホやPCを充電するための変換プラグを用意したり、モンゴル語の勉強をして現地の人に嫌われないようにしたり、予防接種の準備をしたり、パスポートの写真がしょぼかったことを根に持ったり、仁川国際空港での乗り継ぎの仕方をブログで勉強したりしているのだが、そのあいまにぶつぶつと、不安だ、なんでぼくなんだ、ちゃんとやれるんだろうか、MIATモンゴル航空のeチケットにリザーブナンバーが書いてないのはなぜなんだ、とつぶやき続けているのである。

そんなぼくは、飛行機の乗り継ぎに成功している場合は、いま、ウランバートルのホテルでそろそろ目が覚めるはずなのです。Wi-Fiはほんとうにつながっているのだろうか。